【技術者コラムvol.48】羊山幻想曲

第2種/埼玉県さいたま市/A.T

陽光目映い春の日に、秩父の羊山公園を訪れた。

坂道を上り詰め、木立を抜けると眼前に眩しいばかりの強烈な赤い芝が目に飛び込んできた。さらに歩を進めると、擂り鉢状の地形に赤・ピンク・白の芝桜がコントラストの効いた曲線を描いている。芝の芸術とも芝のアートとも言ってもいい程の見事な幻想的光景である。どこからか、お囃子が聞こえてくる。

おそらく秩父の町おこしに試みたものと思われるが、開花のシーズンには今では訪れる人々も100万人とも言われている。女性デザイナーの考案によるもので、「秩父夜祭」の屋台囃子の囃し手たちの着物の図柄をモチーフにして、その勇壮な舞台を芝桜で表現したそうだ。

 

体の芯まで寒さを感じる季節になると

秩父夜祭を迎える

遠くから聞こえてくるおはやしが

曳き手のかけ声と共に

団子坂を一気に駆け登り

それと同時に大きな歓声が

あちらこちらから湧き上がる

・・・ひとつ、ひとつは小さな花ですが

一斉に咲き誇るその様は

夜祭の喧騒のごとく、人の心をわきたてる

さあ目を閉じて 聞こえてきませんか?

芝桜の香りの中で

大空に響き渡る 秩父屋台ばやしが・・・

シバザクラデザイナー 西 貴恵子

 

おそらくデザイナーは、芝職人の手を借りながら、丹念にその想いを地面のキャンバスに落とし込んでいったのであろう。自ら描いたデッサンを基に測量し杭を打ち、地縄を張って描いたのだろうか? また、ひょっとしたらヘリコプターにでも乗って、微細な部分を一点一点指示して杭を打ち直していったのだろうか? その苦労が偲ばれる大作・労作である。

 

曲線美 作者を偲ぶ 優雅さが

羊山 ピンクのじゅうたん 淡き恋

夜祭の 喧騒燃ゆる 赤き芝

妖艶な 香りに咽る 羊山

赤と白 斜面に映ゆる 芝桜

 

あたり一面に漂う芝桜の香りを満喫しながら、羊山を後にした。