1種不合格/鹿児島県鹿児島市/T.A
自治体の管理即ち庁舎の主任技術者をする部署に異動となった。
触れてはならない聖域が二つある。議会と消防局である。
議員は有権者である市民に、市民は行政に、行政は議員に遠慮するため議会に対しては最大限の配慮をしなければならない。
一方消防局は庁舎の一角を占め119番の通信指令という市民の生命財産を守る最前線にある。警察は県単位だが消防局は市町村ごとに置かれる。例外組織として特別大きいのが東京消防庁であり全ての自治体はここを模範としている。
庁舎電気主任技術者は当然この消防局の電気設備の管理も行わねばならない。もともと庁舎管理部署に主任技術者は配置されず建築部所の職員の併任となっていたがある事故が起こり119番通信に支障が生じた。選任の主任技術者を置くようになり私はその2代目として着任した。
庁舎は市街地の中心部にあり停電は殆どない。非常用発電機も十分な容量のものが設置され滅多なことでは消防局電源が脱落することはない。しかしながら消防局のある建物は半地下構造で電気室が地下にあり過去にその建物だけ浸水し停電した事があった。
この教訓を生かし消防専用の小さな非常用発電機を追加したが同じ地下室にあり浸水すれば119番通信に支障が出る。
大雨や台風時は気が気ではない。119番が止まれば市民の命にかかわり責任重大である。仮に止まった場合責任は主任技術者だけでなく自治体トップまで及びかねない。
消防局の要求は「市民の人命財産を守る119番」という錦の御旗のもと全て受け入れざるを得ない状態が続いた。
当時の私は市長事務部局との密接な連系が必要で多くの市民の119番を守る縁の下の重大責任者である自分を自負し庁舎から消防局を移転させたいという発想は無くまたそのような立場でもなかった。
事故なく主任技術者が4年経過していた時突然上司が分庁舎建設と同時に消防局を出て行ってもらうと告げた。上司も消防を追い出して肩の荷を下ろしたかったのだろう。
通知時には既に構想はできており5階建ての建物の半分を消防、その他は福祉関係外局が占めることになっていた。もともと消防局の本部と中央消防署は庁舎内にあったが車庫棟部に行政棟が建てられ消防署は移転させられ本部のみが残った。局の事務方は常々「庇を貸して母屋を取られた」と嘆いていたが今度は本部も出ていかねばならない。
1年後再び建設部局に移動となったが私が分庁舎を担当することになった。
設計にあたり絶対に風水害で119番を止めない電気設備と通信設備を念頭に入れた。
電気設備は全て水害の心配ない6階に置き法に基づく非常用発電機のほか万が一の場合に備え119番通信指令関係専用発電機も自動起動するよう設計した。
庇を貸して母屋を取られ追い出された形の消防局は結果的には安全性の高い新庁舎と念願の最新鋭119番通信指令設備を手に入れた一方で庁舎主任技術者は119番電源の心配から解放されたのである。
