【技術者コラムvol.90】原子力の夢 NEW

1種不合格/鹿児島県鹿児島市/T.A

平成23年3月11日本当か自分の目を疑う信じられない映像が映し出された。がれきを先頭に田んぼを津波が進んでゆく。悪夢である。九州にも津波警報が出され我々は騒然となった。幸い津波は30cm位で被害はなかったが事の重大さは次々に明らかになった。

福島第一原発が電源喪失しており心配していたところに水素爆発のニュースが飛び込んだ。規模は遥かに小さいが同じ発電所を運転管理している中で電源喪失がいかに重大で深刻な状態かは解っている。究極のブラックアウトである。さらに原子力発電所は火力のように燃料を止めれば事が収まるものではない。緊急停止したものの原子炉内の莫大な崩壊熱は止まらない。必死の対応にもかかわらず炉心溶融という最悪の事態に陥った。

私が小学校高学年の頃原子力の実用化が始まり今後の新しいエネルギーとして脚光を浴び将来は小さな装置で大量のエネルギーを発生する原子力の時代になると聞き心が弾んだ。

大阪に就職した私は完成して間もない美浜発電所を見学に行くなど資源の乏しい我が国の救世主になるであろう原子力に期待を寄せた。次々と原子力発電所が建設されたが一方で安全性や使用済み核燃料の処理など課題もあった。安全性について放射能漏れはよく議論されたが全ての電源喪失は極限の事態であり想定されなかったのであろう。2重3重の安全対策がなされておりそれらすべてが突破される事は考えていなかった。スリーマイル島、チェルノブイリ原発事故はあったがまさかわが国で世界最大の原発事故が起きるとは私も思っていなかった。

職場に行っても福島の状況が心配で気が気ではなかった。場合によっては福島県は放射線汚染により何十年も住めなくなるかもしれないと心配した。

基本的に原子力推進の私の考えも揺らいだ。原子力船陸奥の失敗、高速増殖炉「もんじゅ」の失敗、六ヶ所村の再処理施設の絶望的遅れ、使用済み核燃料の大量蓄積、最終処分場の未決定そして今回の重大かつ最悪の事故である。

地震列島の日本の原子力発電は今後非常に厳しい制約のもと運転を余儀なくされる。資源の無い我が国にとっては化石燃料に頼らず燃料を国内で再処理し準国産エネルギーになるはずだったが課題は格段に多くなってきた。国は将来のエネルギー見通しで原子力を20%目標にしたがテロ対策、予備制御室整備、知事や自治体の同意、避難計画作成義務等厳しい再稼働条件が課された既存原発や新設が望めない中この目標は達成できないのではないだろうか。原子力による明るい未来の夢は潰えた。