【技術者コラムvol.59】巾着田(きんちゃくだ)随想

第2種/埼玉県さいたま市/A.T

巾着田とは風変わりな響きのする地名である。

埼玉県日高市にあるヒガンバナ(曼珠沙華)の群生地であり、その規模は全国的にも最大級のものと言われている。

秋の彼岸前に当地を訪れる機会があったので立ち寄ってみた。

まだ満開ではなかったが、あたり一面の朱色の曼珠沙華は見る者を魅了する一見の価値は十分にあった。

巾着田付近は今から1,200年前に高句麗から渡ってきた高句麗人が住み着き、大陸文化を取り入れた高度な生活を営んでいた場所である。

当時、水田を作ることは大変な事業であったが、高句麗人は高麗川が蛇行していることを巧みに利用し、川をせき止めその内側にあふれた水を導き水田とした。

その形が山の上から見ると、巾着の形をしていることから巾着田と呼ばれるようになったそうだ。

現代のように機械器具もない遥か昔の中国人の知恵の結晶であり、改めて感服するとともに遠い昔へ思いを馳せた。

歩を進めると、曼珠沙華の赤が目につき始め、あたり一面が深紅な色で染められたようで、ニセアカシアの林の緑と高麗川の清流とが調和して、美しさを一層引き立てている。

 

散策するうちに一句浮かんだ。

曼珠沙華  朱色に染まる  巾着田

 

赤く狂ったように咲いた花を近くでよく観察すると、なんとなく淫靡な花弁をしていて妖しい香りがするようだ。

妖しさゆえに美しいのか。

ちょっと近寄りがたいような気もした。

幼い子供がその花を摘もうとして、母親に「だめよ。この花は仏様の花なんだから。」とたしなめられているような様子が浮かんでくるようだ。

何の変哲もない鄙びた山奥にこんな歴史が刻まれているんだなと想いを巡らせながら、帰路についた。