【技術者コラムvol.07】遅れ力率と進み力率

第2種/東京都日野市/M.S

私がまだ主技の免状を所持していなかった、設備管理業務をアルバイト的に

始めた頃の話である。

当時私を指導してくれたのは、旧某帝大の物理学科を卒業された2種主技

の方であったが、私の大学での専攻が数学であったこともあり大変ウマがあ

った。

 

さてその会社の記録用紙にある力率の項目には+とーが百分率表示で記入

するように予め示されており、そこでは+が遅れを意味していたが、中学1年

時に習う正負の数の考え方に従えば、進みがーになることは明らかだろう。

ただこの頃は大学の教養科目で電磁気学や電気回路などを履修済みであっ

たが、力率や進み遅れといった概念に関して全く無知であったので、私は少し

奇異な感じを受け彼に訊ねたが、電圧を基準にとるか電流を基準にとるかに

よって進み遅れの定義が変わるが、ふつう電圧を基準にとるので遅れを+と

するという話だった覚えがある。

 

このときはそれでおしまいだったが、その後だいぶ経って電験を受験する

ようになって、進み(遅れ)力率とは、電流が電圧に対して進んでいる(遅れ

ている)ときの力率、すなわち皮相電力に対する有効電力の比であると、その意味が理解できたのだった。

 

以下のことは2種以上の主技の方々には自明の話であろうが、一応この件

について補足しておく。

Vを(線間)電圧、Iを電流とする。

ここではVを基準にとるため実数とし、他方Iを複素数とする。

Iは複素数なのでこれを実部と虚部に分け、I=Re(I)+jIm(I)とおく。

進み遅れは実軸に対して、したがって電圧Vに対してIの虚部、Im(I)の正

負によって決まるので、進み電流の場合は上記と同様に

I=Re(I)+jIm(I)   ただしRe(I) , Im(I) > 0 とする    (1)

と表せる。

ここで有効電力と無効電力を考え、それぞれをP、Qで表すことにし、次式で

定義する。

P + jQ = aV・I(*) ただしa=3^(1/2) 、I(*)はIの複素共役とする。 (2)

(!)式から、

I(*)=Re(I)-jIm(I)

となるので、

(2)式により

P+jQ=aV・Re(I) - jaV・Im(I)                  (3)

が得られ、したがって力率Pfはその定義から、

pf = Re(I)/abs(I)     ただしabs(I)はIの絶対値とする。

つまり力率自体は進みでも遅れでも電流値abs(I)が等しければ同じ値とな

るが、(3)式から進み電流の時は無効電力が負値となるので、力率は負値と

なる。

なお、古い書物では進み遅れの正負が逆になっていることがあるが、これは

電流を基準にとっていることに因るもので、現在の電気工学では電圧を基準

にとるのが一般的である。